書評

2012/11/12

Bookbinding as a Handcraft

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第53回 東京名物神田古本まつりへ出かける。

初日の午前中ということもあり、本気モードの人々が街を埋め尽くす。

歩道にずらーっと並んだ書架に群がる本の虫。

あまりの混雑ぶりに少々困惑。ぐいぐい押してくるおじさんには勝てません。

というわけであまり人の居ないところを狙ってジックリ探す作戦に。


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この日の収穫。

右二冊はこのブログでもお馴染み岩波写真文庫。鎌倉とポンペイ。どちらも内容がとてもよく、状態も綺麗。

鎌倉というとオシャレで静かな雰囲気のお寺にあじさいが咲きほこり…というイメージだが、この本が出版された1950年頃は有名な極楽寺も住職の居ない廃寺だったり、重要文化財クラスの仏像なども痛みがひどい状態で放置されていたりと、今では想像できない様相を呈していたようだ。そんな珍しい写真が沢山収録されている。

一方、ポンペイは、火山の噴火で一瞬にして灰に覆われ消えてしまった街という程度の知識に少し毛が生え、実際に現地へ出かけてこの目で見てみたくなった。

まん中は錯覚・錯視の本。オプティカルアートの解説本だ。じっと見ているとぐりぐり模様が動き出す不思議な図がいっぱい。

一番左の[ Bookbinding as a Handcraft ] は今回一の掘り出し物。1981年出版なので、ISBNもついているのだが、ネットで検索しても日本でのデータが見つからないので、手に国内で手に入れるのは難しいかも知れない。


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タイトルは「手工芸としての製本」つまり手製本。

道具の紹介から各種製本法、花布編み、箔押しまで、かなり広範囲に技法が紹介されている。


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この本の特にうれしいところは、各道具、それも手機械やプレス機、かがり台や小口切りの道具などのつくり方またはつくり方のヒントが書かれているところだ。

製本を始めると、段々に専門の道具が欲しくなってくるものだ。しかし、これらの道具を買おうと思うと、それぞれが結構な値段なので、なかなか手が出ないことがある。

しかし、見栄えさえ気にしなければ、リーズナブルでありながら必要十分な道具を作ることが出来る。また、自分で作ることで、道具に愛着もわく。

ちなみに我が製本倶楽部も「作れるものは自分でつくる」をモットーに活動しているので、全くこの本のコンセプトには大変共感できるのである。


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平綴じもこんなジグを作ってルーターを使い穴を開けています。素晴らしい。


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ああ、それにしてもすごい人混みだったなあ。

第53回 東京名物神田古本まつり 2012年10月27日(土)~11月3日(土・祝)


 

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2012/06/18

いちばんわかる 手製本レッスン 手でつくる本と基本技法

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監修 井上夏生
出版社 スタジオタッククリエイティブ 2012
ISBN-10 4883935558
発売日: 2012/5/25
25.6 x 18.2 x 1.4 cm 143p

今でも本を作るときに栃折久美子氏の「手製本を楽しむ」を参考にすることがある。この本は何度ページをめくったか分からないが、意外にもその都度見落としていたり、発見があったりとその内容に色あせるところがない。

1980年代に出版されたこの本が二十数年経った今もこうして実用に耐えうるのは、「本を作る」という行為が歴史に裏付けられたスタイルを持っているからだろう。

製本術は、素材で言えば、骨や粘土板、パピルス、羊皮紙、紙へ、形状でも塊から、巻子本(巻物)、折り本、糸綴じ本へと数千年の時間と先人の知恵が現代に受け継がれている。

時代を追うに従い、より便利に、より軽く、より強く、より簡単に進化してきた。

大げさに言うなら「本を作る」こととはこうした歴史を体現することと言い換えることも出来る。一つ一つの行程に必然的な意味があり、そうした行為を理解し、積み上げることが「本を作ること」なのだ。

前述の本が優れている点は、本を作ることにおいて、見た目の華やかさ、かわいさ、という点に焦点を当てるのでは無く、本のあるべき姿を信念を持って説いていることだ。



工夫をすることで、専門的な道具を出来るだけ使わぬよう、初心者に気を配りながらも、妥協の無い本格的な内容を持つ本を作れるように解説されている。本格故、思想的にも技術的にも全く古さが感じられることがない。

このブログでは「手製本を楽しむ」の他にも今まで何冊かの「製本系」実用本の紹介をしてきたが、特に最近出版の本では厳しい評価をしてきた本が多かったように思う。

確かに栃折氏の本を比較の対象にしてしまうのは酷とはいえ、雰囲気重視の写真や装幀で客引きをするが内容がさっぱりな本のオンパレードに辟易していたというのが正直な感想だ。

新しく出版された本を開いては「またか…」と幾度ため息をついたか。

そうした、ちょっとした製本関連本の憂鬱を吹き払う本がようやく現れた。

いちばんわかる手製本レッスン、である。

まるみず組代表の井上夏生氏がスーパーバイザーとして参加、監修した本だ。

とあるが写真を見る限り監修という立場というより、写真にある制作プロセス写真もコメントの骨子もご本人がやられている気がするので、製本に関する実務的作業は井上氏・まるみず組の仕事といっていいだろう。

ご存じの方も多いと思うが、まるみず組は板橋にある製本用具の販売や定期教室、ワークショップを行っているお店だ。

もちろんショップのホームページもあるので是非ご覧になっていただきたいが、製本家として、製本用具販売の代表として、それを教える教育者として、伝統とスタイルを重んじながらも常に新しさや面白さを提案し、製本の楽しさを伝えようとする独自の姿勢が伝わってくる。



本書は、本と向き合い、道具と向き合い、同好の士と向き合ってきた井上氏が今までの経験を惜しみなく披露した久しぶりの「魂を感じる」実用書だ。

和綴じ本、折り本、中綴じ、角背上製本、丸背上製本、ドイツ装、リボンリンプ製本、改装本、夫婦箱、スリップケース、アルバム、さらに簡単ながらマーブリングの解説までなされている。



B5サイズ144ページにこれだけの内容が良く入ったと思うが、不思議と窮屈な感じは無い。プロセスを解説する写真群が整然と、それぞれの行程ごとに分かりやすいアングルを選んで撮影されているし、全て絞りの効いた被写界深度の深い写真で構成されている。

経験上、はじめての人が間違えやすい、迷いがちな部分はさらに吹き出しの写真を加え解説しており、手抜かりがない。

それぞれの綴じ方には、つくり方のほか、アレンジ例を加えているが、これも作品然とした個性の強いものではなく、あくまでも考え方の例として扱っているところも、つくり方指南に徹したこの本の意図がうかがえる。

個人的に気になるところは丸背上製本だ。細かい説明は長くなるので省くが、本の背の丸みを出すのに、本を挟む道具を必要とする。しかし本書では、これを厚いボール紙を挟むことで作り上げることを提案している。

いずれ自分でもこの方法を試してみたいが、高価な専門的な道具を使わず、一歩ステップアップした技術を学べるというのは初心者にとってとても有益なことだと思う。




また、道具や、切る、かがるなど巻末の解説群も初心者にとって役に立つ情報が多い。

このあたり井上氏の 「製本家として、製本用具販売の代表として、教育者として」の経験が大いに生きている部分と言えよう。

そしてなによりこの本が製本をまじめに考えているというのは本書が糸綴じされ本である、ということを書けばおわかりになると思う。

先にも書いたとおり、本当に使える本はいつになってもも色あせることは無い。いくら良い本でも何回か開くうちに壊れてしまってはその価値は半減する。価値があると信ずればこそいつまで経っても壊れない形で出版することが出来るのだ。

これについては、本書を手がけた出版社の英断にも拍手を送りたい。

最後にカバーの折り返しにも巻末にも書かれている文章があるので紹介したい。

本書は、習熟した知識や作業、技術をもとに、読者に役立つと弊社編集部が判断した記事を再構成して掲載しているものです。書くまでも習熟社によって行われた知識や作業、技術を記事として再構成したものであり、あらゆる人が、掲載している作業を成功させることを保証するものではありません。そのため、出版する当社、(会社名)、および取材先各社では作業の結果や安全性を一切保証できません。また、本書に掲載した作業により、物的損害や、傷害と言った人的損害の起こる可能性があり、その作業上において発生した物的損害や人的損害について当社では一切の責任を負いかねます。全ての作業におけるリスクは、作業を行うご本人に追っていただくことになりますのでご注意ください。

カッターで怪我をしたり、改装本を作り損ねて希少本をダメにした人に対してクレームを入れてくれるな、といいう警告と思われる。



しかし、私はあえてこの文章を自分を含めものを作る人に向けた親切なアドバイスと読みたい。



もの作りとは楽しいことばかりではない。思ったようにいかないことはしばしばだし、意外に危険とも隣り合わせだっりする。器用な人も不器用な人もおり、同じように作業をしたところで同じように綺麗に出来るわけではない。

趣味とは言え、一つの技術をそれなりに習得するには、努力と、積み重ねと覚悟が必要なのである。



しかしその先にはきっと素敵な世界が広がっているのだと。


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2012/04/11

手づくり製本の本 こだわりの作家もの+つくり方

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手づくり製本の本 こだわりの作家もの+つくり方

嶋崎千秋
誠文堂新光社 2012    144ページ
SBN-10: 4416812078
208 x 182 x 12 mm

4人の製本家、5人のクリエイターが作る「手製本」を紹介、そしてこれらの作家の何人か(主に製本家)がいくつかの作例の解説を行うという内容のもの。

海外の本では「製本」をテーマとした複数の作家による作品集は珍しいものではないが、和書ではあまり見かけない。

製本人口自体の絶対数が海外とは比較にならないほど少ない、ということなのかもしれない。

本書に登場する山崎曜氏や赤井都氏はすでにそれぞれご本人による「手製本」の本が出版されているのですでに作品をご存じの方もおられるだろう。

「個人」ではなく「複数の作家の作品が観られる作品集」の良さは、いわゆる一人の製本家なり作家が作る「HOW TO もの」と違い、同じ形式の造本でも微妙にとらえ方が違うことなどが比較できるところにある。

作る人それぞれが大切にしていること、こだわりなどが作品に反映されているからだ。



本書では少ないページながら「いろいろな本」として、”中とじ”、”平とじ”、”布の本”、”アルバム”、”豆本”、”改装本”など、テーマに沿った本を集め紹介している。

しかし、この手の本に常々感じている「雰囲気はあるが内容が今ひとつ」な印象が残念ながら本書にもみられる。



この本の場合、参加している作家とは別に作者(とりまとめる)人がいるため、個々の作家の問題ではないことをご理解の上、主に作者および出版社に対する愚痴と思って読んでいただきたい。



まず、とにかく少ないページの中で色々詰め込みすぎ。

詰め込みすぎといっても「情報量がおおい」ということではなく、よく分からないカテゴリーの細分化が引き起こす混沌が引き起こす「お腹いっぱい」感。



そもそも製本家とクリエイターを分ける必要性とはなにか?


序文に製本家とクリエイターのつくる本についてその「スタンスの違い」の説明はあるが、「クリエイター」とはそもそも、ものを創り出す人のこと。そういう意味では製本家も製本を中心とした活動をするクリエイターだ。

それとも、製本家は職人で、クリエイターはアーティストといった認識なのであろうか?少なくても個々の作品を観るかぎり、どちらが職人的でどちらがアーティスティックなのか特別「差」がある構成になっているとは思えない。

本を作り出すことにおいて、様々なアプローチがあり、それぞれに魅力ある作品が創られる、ことをあらわしたいのであれば、変なカテゴリーに分けず、作品の作者がどのようなもの創りをする人なのかを簡単に紹介すれば済む話だ。

妙な分け方は作例についても言える。

本書では、作例としてそれぞれの作家が提案する製本を解説するパートがあるのだが、これも「つくってみませんか」と「ワークショップ」とに分かれている。

作例は作るプロセスのみ、「ワークショップ」は普段作家が実際に関わっている製本教室の様子を織り交ぜながらと、アプローチの違いはあるが、わざわざ扉を増やしてまで分ける必要があるのだろうか?


とにかく、様々な内容がとりとめもなく羅列されている印象。



そして、一番の問題。それは写真。

イメージ写真として、被写界深度の浅いレンズで「ぶつ撮り」するのは仕方ないとして、作例に使うプロセス写真までこれを使うというのはいかがなものだろう。

ちなみに被写界深度とは簡単に言えばピントの合う奥行きの範囲のこと。被写界深度が浅い写真は見せたい部分の奥行きのピントだけが合って、他がぼけるため、ふわっとした雰囲気のある写真になる。


作例写真の全てが「甘い写真」というわけではないが、気になるレベルでこうした写真が入っており、伝わるべきことが伝わらない説明が散見される。

これらプロセス写真に与えられた大きさはそれほど大きいスペースはとれないのだからこそ、分かりやすいアングル、はっきりしたピントは必須だと思う。

他の本と比較しては申し訳ないが、今回の作家の1人山崎曜氏の「手で作る本」の制作工程の説明には全てイラストを使用している。写真では余計なものまで写ってしまうが、イラストならば必要な部分だけをしっかり見せることが出来る。イメージ写真のような雰囲気はないが、作者の意図を正確に読者へ伝えるという「目的」をはっきりと感じる方法がとられている。

もちろん、本書にある写真と説明でも制作工程は理解できるが、とても「親切」であるとは言えない。

正直、この手の企画本がどの程度の時間をかけて作られているのか分からないが、企画の段階で「何を伝えるべきか」をもっと吟味する必要があるのではないか。

残念ながら、この本はネットサーフィンで寄せ集めた内容をそれらしくまとめたようにしかみえない。むしろ、各作家の運営するサイトやその他、製本関係のサイトを巡るほうがそれぞれの作家の人となりがよく分かるし、本では紹介されていない有益な情報を得ることが出来る。

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2012/01/18

本−その歴史と未来

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本−その歴史と未来

デイヴィッド,ピアソン 著   原田 範行 訳
ミュージアム図書 2011 208ページ
SBN-10: 4904206096
26.8 x 19.8 x 2.9 cm


今年は閏年だ。
「閏(うるう)」は,暦の一年と,実際の季節の周期のズレを調節するため一年を平年より一日多くすることを指す。そして閏のある年を閏年という。
閏年はオリンピックイヤーでもあり,この年に夏のオリンピックが開催される。

そういう意味ではある程度なじみのある閏年ではあるが,閏秒というのもあるのだがご存じだろうか。かくいう私も寡聞にして知らなかったが,こちらは天文学的に計測した時刻と,標準時刻の基準としている原子時計のズレを調整するために加えたり減らしたりする1秒のことらしい。

閏秒は,潮の満ち引き,海水や氷河の分布変化など刻々と変わる地球の自然現象に対するズレを修正するため,,閏年のように4年に一度一日を足すといった定期的なものではなく,天文学的に計測した時刻と原子時計のズレに一定の開きが出たときに閏秒を加減するそうだ。

いま,この閏秒を2013年に廃止することを目指す提案がなされている。

理由は様々だが,コンピューターが不定期な一秒の加減で不具合を起こす可能性があることが一番の要因だろう。

コンピューターが誤作動をおこすといわれ,世界的な騒動となった西暦2000年問題なども通底する話だが,今や様々なシステムやルールはコンピュータの存在を外して考えることができないようだ。

閏秒の話で言えば,一度の修正が一秒ずつ,1972年に挿入以来たった24回の挿入しか必要としない修正のためにコンピュータのプログラムを複雑にしたり,その修正をフィードバックできないコンピュータが誤作動をするリスクを考えれば,無くしたところでたいした実害は無いだろう,というのが廃止論者の立ち位置だ。

しかし,一方で,100年単位でみてたいした差にならないとしても数千年数万年単位で考えた場合,昼夜が逆転したり,季節が逆転したりすることも考えられる。どこかでまとめて調整すれば良いという話もあるが,そもそも修正のタイミングが定期的なものでないため,同じような問題がどこかで生じる根本的な解決は容易ではない。

様々なことがコンピュータに取り込まれ,コンピュータが生活の基盤になっている今,これを中心とした社会システムが構築されるのも致し方ない話かもしれない。しかし,何もかもが高度な電算機に取り込まれそれに支配され,知らないうちにあたかもそれが何の不思議も無い当たり前な光景になってしまうことに一抹の不安を感じざるを得ない。

そもそも,データを完全に安全な状態で保存するということも現状では確実では無い。それ故,重要な情報はいくつかのメディアにコピーして,別の場所に保管すると言うこと安全を確保しなければならない。

昨今,スマートフォン流行でこれに音楽から小説,写真やアドレスまで何から何までを管理しネットサーフィンやメールを打っている姿を見かけるが,すべての人がみんなきちんと安全なバックアップを取っているのだろうか?

痛い目に遭ったときには,人生における一定期間を空白にしてしまう危険性をはらんでいることを皆承知しているのだろうか?

本書は,このブログでも何度か取り上げたテーマ,コンピュータ時代における書物のあり方を,書物の現状から未来を展望しつつ,テキスト=コンテンツとしての書物と,モノとしての書物の本質的相違を数多い図版や写真をあげて解説している。

特に個人蔵書における所有者の書き込みについての項(第4章 蔵書家気質あれこれ)は「本に書き込みなどしてはいけない」と教えられてきた私にとってとても新鮮だった。

書き込んだ文字から人柄が見えてくるのはもちろん,あいた空間に所狭しと埋め尽くされた備忘録を見ると,むしろ一冊の本をこれほどまでに読み込んで,自分のものとしようとした一冊の本が「非常に価値ある品」だったと言うことが写真からひしひしと伝わってくる。

コンピュータ時代の書物はコンテンツの見せ方に工夫はあるものの,書物そのものが経験する時間や経験を表現する深みのあるモノになるにはまだ至ってはいない。




追記 国連機関の国際電気通信連合(ITU)は19日、ジュネーブで開いた無線通信総会で、原子時計の高精度な時刻と地球の自転速度に基づく時刻のずれである「うるう秒」を当面存続させることを決めた。

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2011/11/06

どこでもできる“紙漉” 現代の紙造形

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伊部京子編

至文堂 2000    157ページ

ISBN-10: 4784302042

25.4 x 20.8 x 1 cm


和紙をモチーフとした造形作家である伊部京子氏が、和紙造形の現在とその魅力を,実際に紙のつくり方を通して,一般の人に広く伝える内容の本だ。

伊部氏についてはこの本ではじめて知ったので,詳しいことはそのプロフィール以上には分からないが,いわゆる作家然とした難しい人ではなく,とにかく紙を愛し,その魅力を啓蒙する手段が作家活動につながっているように思える。

いかに紙が面白いか,紙を使った造形が楽しいか,しかもそれが難しいことではなく,どこの家でもあるような道具と素材で出来てしまう。ちょっとした工夫で,本格的な作品さえも作れてしまうことを実例を交えて解説している。

実例も,ティッシュペーパーを材料にして,金網しゃくしで漉きあがるという,紙の叩解さえも必要としない,暇なとき台所でちょいと作れる「紙」から始めているあたりに「とにかく,やってご覧なさい。楽しいから」という氏の声が聞こえてきそうだ。



もちろん,用具用材では,様々な原料の用意の仕方,漉き枠のつくり方が解説されているし,漉き方についても枠に紙料を直接注ぎ込む「注入式」と紙料の入った水槽に枠を入れ紙料をすくい取る「くみ上げしき」が説明されている。



なかでも面白いのは紙料を水に浮揚させ,均質かつ薄く紙を漉く作用のある粘液=ネリにオクラやモロヘイヤを使うところだ。

実際の和紙製造の現場ではトロロアオイという植物の根を使うが,これは一般的ではないし,季節が限られているため手に入りにくい。

そこで,同じつぶすと粘りけがでるオクラやモロヘイヤを使う訳だ。

どの本か,インターネットの情報か失念したが,オクラが代用できるという話は聞いたことがある。しかし,実際にどのように粘液を抽出するか具体例を持って解説されていたわけではない。

その点,本書ではしっかりと写真入りで解説されているため,次回,自分で紙を漉く際には試してみたいと思う技法だ。

蛇足だが,粘りけがあるからといって里芋や山芋は手がかゆくなるので,適当ではないと記されている。どこまでも親切なのである。


紙の仕上げ技法としても紙料の染織や形による模様作り,すかし入れまで,幅が広い。

実技編だけでなく,協力著者による,(アートシーンでの)紙造形の解説や,紙の科学があり読み応えも十分だ。



また,紙に関する素材や体験,相談が出来るところの紹介も充実している。2000年刊の本なので,もしかすると今はなくなっている場所やサービスがあるかもしれないが,初心者にとって,これはとてもありがたいものだ。


著者の熱が伝わる本というのは隅から隅まで気持ちがいい。


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2011/09/30

和装本のつくりかた

Wasoubonnotukuri


和装本のつくりかた

村上翠亭・山崎曜 共著 
二玄社 2009    85ページ
SBN-10: 4544026237
240 x 190 x 12 cm

さらさらさらっと何が書いてあるか分からない書も,「変体かな」や「くずし字」に興味をもつと,途端に魅力ある世界が広がっていることに気づく。

国立博物館に行くと,国宝,重要文化財クラスの書や古典籍が展示されており,写真で見るのとは違う紙や墨の質感を見ると,なぜこれまでこれまで興味を持ってこなかったか不思議な気持ちでいっぱいになる。

もっとも,そうした日本の美しき文化に気づき,その心を日々学んでいる人も多いようだ。休日の公民館や地域センターで書道会や有志による小規模な書道展が開催されている。

時間のあるときふらっと立ち寄るが,素人の私から見ると,どれも素晴らしい出来で,驚いてしまう。

こうした展示会で多いのは,基本的に軸物や短冊,額装で,和装本に仕立てたものはあまり見かけたことがない。

確かに,額装は額屋さんが,掛け軸は表具屋さんがやってくれそうだが,和装本を仕立ててもらう場合はどこに頼むのだろうと疑問に思ったことがある。


現実問題として,洋装本のオーダーメードは比較的見つけやすいが,和装本のそれはあまり多くない。

本書は,実際に書をたしなむ人が自分の作品をつくる,またはまとめることで,を前提とした製本実用書だ。

自分で作ることが出来れば和装本のハードルは一気に下がることになる。



本を作ることが目的というよりは作品を本にする,あくまでも作品が主体としているところがユニーク本だ。

確かに,作品を本の仕立てにしたいと思っても,よほど本作りに興味がない限りは,一般的な「製本」実用書は敷居が高く見えるに違いない。


本の雰囲気自体,落ち着いた,多少年齢層が高めに仕上げられており,著者の1人も書家の村上翠亭氏が担当し,書の立場を重視している。



また,共著として,製本家の山崎曜氏が名を連ね,古式に偏らないよう多少モダンな要素を組み込みターゲットの幅を広げているところも面白い。

内容は,あくまでも作品を綴じることが目的のため,製本実用書によくありがちな本の名称や,綴じ方の種類などの解説は最小限だ。



もちろんそれはそれで良いと思う。しかし,行程写真をふくめて,全体の作業の流れがわかりにくいのが残念なところ。本当に製本の知識が全くなく,この本一冊で作り上げることは難しいのではないか。



これは写真の撮り方や,素材の色の組み合わせの問題が大きい。もちろんよく見れば分かるのだが,一瞬どのパーツをどこから見ているのか分からない部分が多々ある。(山崎氏のパートは,慣れているだけあって,紙と糸の色を変えたり見やすい工夫がなされている)。



全体的に写真の大きさが意味なくまちまちで見づらいのも問題。

また,使用した紙(両面装飾,とか片面装飾の料紙や裂など)やそれに類するものが購入できるところのクレジットは入れて欲しいところ。




自分の趣味や行為を「本」という形で残したい,というニーズは少なからずあると思う。そうした人に向けた「製本が手段」になる実用書がある,というのはとてもいいことだと思う。



この場合,難しい語句や,決まりなどは一切無視しても良いと思うが,とにかく,作る人が間違いなく作れるように内容を吟味するべきだと思う。



好きな人なら,解読してでも理解しようと思うことでも,興味のない人にとっては単純にあきらめる原因になってしまうのだから。



 

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2011/09/16

お気に入りをとじる  やさしい製本入門( NHK 趣味悠々)

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お気に入りをとじる  やさしい製本入門( NHK 趣味悠々)

藤井敬子 日本放送出版協会
2008 256 x 208 x 8 mm 127ページ
ISBN-10: 4141884677

学生の頃は,寝ているときでさえスイッチが入っていたテレビだが,最近では食事を食べる時と,オリンピックや世界大会といった大きなスポーツイベントを観るくらい。

理由はやはり「面白くない」の一言に尽きる。

チャンネルに関係なく,同じような内容に同じような人物が同じようなことをやっている。

きっと面白いことを考えている人々もいるのだろうが,少ない予算の中,そうした人たちへ回るお金が少ないのだろう。

その中にあって,NHK 教育テレビが面白い。

かつて,NHK 教育というと,お堅いイメージがつよく,言い方は悪いが時代から取り残されたチャンネルのように思えたものだ。

しかし,最近は「大科学実験」や「にほんごであそぼ」のようにビジュアルも内容もとてもスマートな番組が結構ある。



また,様々なジャンルを分かりやすく解説する実践番組「趣味悠々」も面白い。

お堅いところから,柔らかいところまでそれこそジャンルは多岐にわたるが,全く興味のない分野のテーマでも,ふと目にとまると,最後まで観てしまうことしばしば。



私にとって,この番組の面白さ、楽しみ方は以下の三つだ。

一つ目は,自分の知らなかった世界を垣間見る楽しみ。
自分とは関係ないと思う分野でも実は役に立つ見方や考え方が見いだせるもの。入門編はとても分かりやすいため,参考になることが多い。



二つ目は,そこに出ている講師の方のキャラクターを楽しむこと。
華道家假屋崎省吾氏やニット界の貴公子広瀬光治氏を知ったのも確かこの番組である。

三つ目は,自分が興味を持っているテーマをじっくりと楽しむこと。
テーマと自分の興味の照準がピタリと合うと,楽しめるうえにうれしくなる。


 2008年6-7月期「お気に入りをとじる」は三つ目,自分の興味の対象に入った講座だ。

どの世界でも同じだと思うが,同じ趣味を持つものとして,「ここはどのように説明するだろうか」とか「どのように扱うだろうか」というのは気になるところ。



本では分からないところも実際に番組の中で動き付きで解説が観ることが出来る機会はなかなかないものだ。

実際この番組の中で講師の藤井敬子氏の紙を扱う手法や所作に参考になる部分が沢山あった。



本書はそのテキストだ。30分の番組の中でよくまとめたと思うが全9回,9つの製本を収録してある。

もちろん用具の解説,本の構造についても過不足なく書かれており,他の実用書と変わるところがない。 解説も,分かりやすいアングルでとらえられた写真を中心として,簡潔になされており,とても良い内容だと思う。


 これが,講師の力量なのか,連綿と続くNHK 趣味講座のテキストづくりの底力なのか分からないが,絶版になってしまっているのが惜しいところだ。

再版はされないだろうから,是非趣味悠々製本第二弾をお願いしたい。

(やはり全国放送のテキスト,発行部数が多いのか,本書は古書店でよく見かける。手に入れようと思えば定価以下で購入可能。図書館で扱っているところも多い。)


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2011/09/08

Handmade Books

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Ray Hemachandra他(編)Lark Books 2010
132x 130 x 16 mm 204ページ
ISBN-10: 1600596827


内容は,「500 Handmade Books: Inspiring Interpretations of a Timeless Form」からの抜粋縮刷版なので,中身を重視する向きは,そちらを購入した方が良いだろう。

ただ,定価13ドル弱,日本円にして1000円未満ではあるが,糸綴じのミゾなしのハードカバースタイルが好ましい。

CDジャケットサイズなので,持ち歩いて読むにはちょうど良いかもしれない。


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2011/08/21

手づくり製本術 日曜日の遊び方

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手づくり製本術
岩崎博 雄鶏社 1994
210 x 150 x 14 mm 144ページ
ISBN-10: 4277812309


実用書や専門誌のの寿命は短い。

叢書の形式をとった「シリーズもの」の本は,版を重ねる場合もあるが,単発のものは,単発のまま終わってしまうことが多い。



趣味の数は色々あれど,ここの規模は多くない。同じ本を売り続けるというよりは,新鮮な情報を常に提供することで利益を上げる構造担っているのだろう。

昨日「無線綴じのこと」では実用書の糸綴じ化を望む記事を書いたが,このような事情では所詮無理な話なのかもしれない。



 いずれにしても10年20年と売られ続ける本はまれにしかない。



1994年刊の本書も現在新本は手に入らない。しかし,これは普通の絶版ではない。出版社の雄鶏社自体がなくなってしまったのだ。



 手芸を中心とした実用書で名を知られる雄鶏社。出版不況と言われる今,老舗出版社の倒産廃業は珍しい話ではないが,雄鶏社が破産した話を聞いたときは驚いた。



当時,手芸専門店や,大きな商業施設に入っている手芸コーナーには雄鶏社の本が沢山並んでおり,破産するような雰囲気は感じられなかったからだ。



驚きと同時に,手芸をしない私が雄鶏社を注目するきっかけとなった「日曜日の遊び方」の何とも言えない(良い意味での)面白いシリーズがなくなってしまう寂しさがこみ上げてきたことを今でも覚えている。



”うんちくと こだわり派のバイブル"と冠された「日曜日の遊び方」シリーズ。今でもアマゾンで,「日曜日の遊び方」と検索すると色々出てくるが,「燻製自慢」あり,「酒をつくる」あり,「新鮮魚介でかまぼこを作る」あり,「はじめてのきのこ栽培」あり,「包丁修行入門」あり,「青み魚に腕まくり」等々,ちょっと他では見ないテーマが目白押しで,密かに注目していたシリーズだった。



今でこそインターネットで調べると,それこそありとあらゆる趣味が広いところから浅いところまで, 知りたい人のニーズに合わせて様々な情報を得ることが出来るが,出版というコストも労力もインターネットに比べれば比較にならない形態で,ターゲットを絞ったテーマを扱う心意気に共感を覚えたものだ。



その中の一冊がこの「手づくり製本術」がある。

日曜日の遊び方の統一した表紙デザインは色紙に墨一色刷(一部違うデザインもある)で,背から平にかけて黒い帯が入り,小口側の角には三角形の「角布」を模した黒ベタが入る。

いわゆるコーネル装をイメージしたフォーマットだが「手づくり製本術」にぴったりのデザインである。

中身は巻頭にカラーページが8ページはいり,本文にはふんだんにイラストが用いられている。目新しさはないが,製本技術を学ぶには比較的わかりやすい内容だ。

ただ,巻頭カラーの作例などはビックリするくらい渋いので,デザインは各自の好みで考える必要はある。しかし,実用書はそれで良いのだと思う。

このように日曜日の遊び方は侮れない内容のものが多い。

古書店や図書館で見かけたら,どのテーマでも良いから開いてみて欲しい。自分の知らない深遠な趣味の世界を垣間見ることが出来る。

ただし,開きすぎるとページが外れがおきてバラバラになるので要注意。


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2011/08/18

自分で仕立てる本

Jibunndeshitateruhon

自分で仕立てる本  
文化出版局編集部編 文化出版局 1976
240 x 187 x 12 mm 82ページ
ISBN-10: -


「仕立てる」とはちょっといい表現だ。
「仕立てる」には作り上げる,とか装うといった意味がある。普段は本を作ると言っているが「仕立てる」の方が特別な感じがして良い。

文化出版局編集部編,製本指導として個人,団体がクレジットされているので,手分けして制作した様々な製本を編集部がまとめたものだろう。

内容は,池上幸二郎 倉田文夫著の「本のつくりかた」に近い。和本あり,洋本あり,帙・函ありと一冊で様々な製本が収録されている。

最近の本に書かれている,本の構造や紙について,使用する道具の説明はどれも同じような,あっさりとした表記にとどまっているが,20−30年前の実用書はどれも丁寧だ。

また,「本のつくりかた」もそうだが,コラムが中々面白い。他愛もない体験談と言えばそれまでかもしれないが,作ることが楽しくて仕方がないという思いがベタに伝わってくるところが好ましい。

作り方では,和装本の大福帳,判取帳ではつり下げる部分を帯麻で縄をなうところや,固表紙の洋装本で芯ボールをかなり幅広く面取りし,一見あんこを入れたようなふわっとした仕上がりにしているところが,好き嫌いはあろうが独特。

布の裏打ちも,板に水張りした布に和紙を貼る本格的な方法が紹介されている。

盛りだくさんだが,それなりに濃い内容といえるが,ある程度製本をしている人には想像のつくことではあるが,初心者にが理解するには苦労しそうな部分が多いのが残念だ。

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